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<イベントレポート>すみだものづくりキャラバン 第4回「樹脂(プラスチック)の成形の現場を見るツアー」
25.04.11

<イベントレポート>すみだものづくりキャラバン 第4回「樹脂(プラスチック)の成形の現場を見るツアー」

「すみだものづくりキャラバン」は、SICが実施するものづくり事業者の現場を訪ね、工場の雰囲気やつくり手たちの技術、想いに触れる1dayのファクトリーツアーです。3月13日、4回目のキャラバンが実施されました。今回は「樹脂(プラスチック)成形の現場を見る」がテーマ。真空成形を強みにするバキュームモールド工業株式会社と、射出成形でさまざまな製品の製造を行う有限会社チバプラスの2社を訪問し、樹脂成形の魅力を存分に知ることができた1日となりました。当日の模様をレポートします。

 

バキュームモールド工業株式会社:http://www.vmold.co.jp/

有限会社チバプラス:http://chiba-plas.com/

 

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「すみだものづくりキャラバン」ではお馴染みとなった、SICメンター会員でプロダクトデザイナーの大井雅人さん(Pit-A-Pat代表)がナビゲーターを務め、各企業をより深く知るためのポイントを伝えてくれました。

 

 

真空成形用金型のパイオニア

 

最初に訪問したのは、堀切駅からほど近い場所にあるバキュームモールド工業株式会社です。同社は真空成形で用いられる金型製作や抜型の設計・製造を手がけています。人々に身近なプラスチック製の食品容器をはじめ日用品や工業製品など、数々のプラスチック製品に同社の金型が使用されています。

 

「例えば、スーパーやコンビニで販売されているプラスチック製のお弁当の容器には、食の安全や安心を守る為にプラスチックが中身を守る大切な役割を担っています。商品が皆様のお手元にまで届いてご賞味されるまで、容器に荷重がかかっても潰れないように、手にとった際に怪我をしないように、容器が変形して中身がこぼれたり、食べられない事がないように等、色々な工夫が容器に施されています。その商品の性能や品質の核となる『型(かたち)』をつくる責任を当社が 担っております。」と話してくれたのは、4代目の社長、北澤正起さんです。

 

 

同社は北澤さんの祖父が1958(昭和33)年に創業し、以来、プラスチックの普及と共にさまざまな金型製作を展開しながら、高度経済成長期の波に乗って真空成形市場を開拓してこられたそう。まさに業界のパイオニアです。暮らしの中で身近なプラスチック製品の製造を支えているのが、バキュームモールド工業なのです。

 

北澤さんは、代表就任以降にこれまでBtoBの金型製造で培った技術を生かして、toC向けに自社商品の開発・販売も始めました。自社ブランド「江戸前樹脂工芸」は、樹脂素材で工芸に値する付加価値の製品をつくる取り組み。第一弾はプラスチック製のインテリアライトを作りました。

 

実は北澤さんとナビゲーターの大井さんは、墨田区で20年以上実施されている経営塾「フロンティアすみだ塾」の同期として共に経営を学んだ仲で、そのご縁から商品開発が実現したそうです。「捨てられないプラスチック」をテーマに生まれたインテリアライトは、フランスのインテリアショーに出展したところ現地の人たちからも上々の反応をもらえているのだとか。

時代を捉えながら技術のアップデートや新たな販路を拡大し、業界をリードする存在の同社。金型があるからこそ様々な製品が作れることを認識した参加者一同は、金型の製造現場を実際に見て回りました。

 

 

真空成形の金型は、エアー回路などの機能形状の加工、製品形状の切削加工や真空孔加工、加工した部分の表面研磨をする工程を経てできあがります。今回は工程の一つ一つの現場を見せていただきました。

 

例えば、真空孔加工。真空成形では空気を抜くことが重要なため、金型に穴を開ける必要があります。シャーペンの芯よりも細い刃で開けていくので、機械で行うと刃が折れてしまうことから人の手で行うそうです。金属の金型に真空孔という孔をあける際、金型表面から見て1㎜~3㎜程度の深さまで孔をあけていく技術が求められますが、担当者たちはほとんどが入社後にその技術を習得しているそうです。

 

 

 

「とても重要な工程の一つです」と強調されたのは、磨きの工程。切削加工などで機械を通った金型には、わずかに機械の跡が残ります。最終的にできるプラスチック製品の品質を左右するため、きれいに磨き上げる精度の高さが求められるのです。

 

「素材の違和感を感知するのは人の目と手なんですよね。まだ機械ではなかなかできない部分ではないでしょうか」と北澤さん。

 

 

設備のアップデートをし続ける同社ですが、人の繊細な感覚の大切さも伝えてくれました。社員のみなさんが金型一つ一つに向き合い丁寧に作業をする光景を目の当たりにして、改めて良い製品は金型の出来で決まる、ということが理解できたはずです。

 

参加者から「業界でトップシェアを獲れる理由は?」と尋ねられた北澤さんは、「ニッチな業界なので大手企業が参入しづらいという点や、設備も人材にもしっかり投資をして、東京に工場を持っている、という点は当社の強みになっていると思っています」と述べました。

 

ナビゲーターの大井さんは、「デザイナー視点で言えば、相談をしたときに『やってみます』と言ってもらえることがとても心強いんですよね。バキュームモールド工業さんの本当の強みは、楽しいとかやりたいと思って取り組むソフト面にポイントがあるのではないでしょうか」と補足します。「創業者から『できないは禁句』という教えが浸透しているのでしょうね(笑)。だからこそ、ものづくりが好きであるとか、楽しめる人が集まってくれているのだと思います」と北澤さん。

 

 

今後の抱負について、「金型一筋でやってきた会社ですが、ものづくりができる町工場として捉えると決して金型だけに固執しなくてもいいと思っています。これからの50年もいろんな変化を起こしていきたい」と語ってくれました。

 

いつの時代でもできる方法を考える。そんなものづくりを楽しむ姿勢を参加者たちは感じとれたことでしょう。業界をリードし続けるための前向きな現場の努力に感動した一同でした。

 

 

 

 

要望に応える体制をつくる

 

2社目に訪れたのは、堤通にある有限会社チバプラスです。自動車部品や文房具、玩具の部品などを射出成形により製造しています。同社は白鬚橋のたもとに近い「白鬚東共同利用工場」の一画にあります。

 

 

「この辺りは町工場が多かった地域です。再開発で鐘ヶ淵の防災団地が建設され、当時そこにあった工場が立ち退くこととなりできた場所なんです」と工場の歴史を話してくれたのは、2代目の社長、千葉勇希さん。

 

 

かつてはゴム屋やプレス屋、印刷屋などの工場が多数入っていた工場施設ですが、後継者不足などの問題により次第に減っていき、現在、50年前から残っている会社は7社のみになっているそうです。さらに来年から再来年にかけて、工場施設の建て替えも予定されています。

 

千葉さんから工場の歴史や成形品の説明を受けた後は、2グループに分かれ、自動車の部品や文房具などを製造する工場と、医療用製品を製造するクリーンルームを案内してもらいました。

 

まずは、横型油圧式と電動式の射出成形機がそれぞれ稼働しているところを見学。そもそも射出成形とは、金型内に加熱溶解させた樹脂を高圧で射出し、冷やして成形する技法です。高品質かつ大量生産に向いています。同社にある射出成形機は5台。それぞれ1時間あたりに成形できる量など、機械の特徴を教えてもらいました。

 

 

樹脂の中でも、ポリエチレンやポリプロピレンは吸水性がほとんどないため成形前に乾燥をしませんが、給水率の高いポリカーボネートやアクリルの場合は乾燥させるといったように、樹脂の種類などによって事前の作業にも違いがあるそうです。

取引先の要望に応じて成形品を作る中で、千葉さんは「信頼を得るためにも徹底した納期管理をするようにしています」と説明します。

少人数でも大量生産ができるようにと、成形品を取り出すロボットをはじめ、成形機や金型の冷却装置、樹脂の脱湿乾燥機を装備して自動化。機械や金型の監視システムを導入して、24時間稼働できるようにしています。また、ロットアウト(製品のすべてが検査基準などを満たせず不良となること)が発生してしまうと、それまで作った分すべての作り直しが必要になってしまいます。そのため、同社では1時間毎に検査をする体制を整え、極力ロットアウトを出さない努力を行っています。

 

 

射出成形で量産する会社は多数あるため、差別化を図りにくい分野ですが、だからこそ「千葉さんにお願いしたい」と思ってもらえる一つとして、高品質を維持しながら納期の短縮ができる体制を整えたそうです。

 

続いて見学したクリーンルームには、医療用製品専用の射出成形機とできた製品をセットする機械が設置され、さらに検品スペースが設けられていました。この日は針のキャップを製造している様子を見学させてもらいました。一定のリズムで動く機械の音にどこか心地よさを感じますが、クリーンスーツに身を包み、衛生管理を徹底して作業をする必要があるので、緊張感もただよっていました。

 

成形する現場を見て、参加者たちはバキュームモールド工業に続き「金型」の大切さを改めて実感した様子。参加者からは「取引先から預かった金型の保管はどうしていますか?」という質問も。「父の代では数年経っても保管していたこともありましたが、数年でモデルチェンジをされる会社様も多いので、現在は量産を終えたら返却するようにしています」と回答します。

ナビゲーターの大井さんは、射出成形の相談をする上でまずは金型代を考慮する必要がある、と言います。「プラスチック製品をつくりたいクリエイターの中には、金型にお金がかかることを知らずに相談される人も多くいます。クリエイター側も製造を理解して相談できるといいですよね」と言葉を添えました。

 

 

最後に自社のプラスチック成形技術を生かして、新しい商品の開発にも取り組んだ事例をお聞きしました。千葉さんは墨田区の事業「ものづくりコラボレーション」に挑戦し、その第1号としてチバプラスが監修をしながらデザイナーと一緒に「お皿まな板」を製作。「すみだモダン」のブランド認証を受け、さらに経済産業省クールジャパン365プロジェクトの商品にも選定されました。

 

 

ナビゲーターの大井さんは「新しいアイデアだけでなく、新しい業界に提示していくことによって、技術や素材の捉え直しができたら、まだまだものづくりの可能性は広がっていくと思いますよね」と述べました。

 

 

 

交流会は古民家で!

 

最後は東向島エリアの古民家で恒例の交流会。バキュームモールド工業の北澤社長も参加され、大いに盛り上がりました。

 

 

バキュームモールド工業とチバプラスは手がけるものは違えど、「どうやったらできるか?」という気概を持っているのが共通していたと参加者たちは感じたようです。感想をシェアする中では、社長をはじめ社員たちを見て、ものづくりに楽しそうに取り組む「人」の魅力に惹かれたという声が多く出されました。今回のキャラバンも、ものづくり企業の想いや課題を知り、参加者たちはアイデア創出の刺激をもらえたはずです。

 

次回はどんな企業と出会えるのか、楽しみです。

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