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<イベントレポート・前編>すみだものづくりキャラバン 第5回 〜ものづくり習熟度向上プログラム特別編〜 鋳物のプロフェッショナル・東日本金属を見学!
26.03.30

<イベントレポート・前編>すみだものづくりキャラバン 第5回 〜ものづくり習熟度向上プログラム特別編〜 鋳物のプロフェッショナル・東日本金属を見学!

「すみだものづくりキャラバン」は、SICが実施するものづくり事業者の現場を訪ね、工場の雰囲気やつくり手たちの技術、想いに触れる半日のファクトリーツアーです。

 

2025年度は全2回実施。今回は前編として、2025年7月16日に「ものづくり習熟度向上プログラム」のカリキュラムの一つとして実施されたものづくりキャラバンの様子をレポートします。

メーカーの真鍮製建築金具の製造など鋳物製品のプロフェッショナルである東日本金属を訪問しました。

 

東日本金属株式会社:https://higashinihonkinzoku.com/

 

 

※後編はこちらから※

 

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今回もキャラバンをナビゲートしてくれたのは、SICメンター会員でプロダクトデザイナーの大井雅人さん(株式会社Pit-A-Pat 代表)です。大井さんの会社は、町工場と一緒に「売れる商品」や「伝わるデザイン」をつくるチームとして、商品企画、デザイン、プロモーションまでを手がけています。よりよいものづくりを求めて心血を注ぐ、町工場の伴奏者。まさにこのキャラバンにうってつけのナビゲーターです。

 

 

「伝統技術の価値を社会課題の解決ができるまでに引き上げたいのが、私の想いです。今回見学をする東日本金属は、私が起業するきっかけになった思い入れのある会社です。私たちがモノを作りたいとき、研究者(町工場)と関わることになります。その存在が一度なくなれば、元に戻すことは到底できないでしょう。リスペクトを持って町工場と接することを大切に、見学をしてみてください」と参加者に伝え、見学がスタートしました。

 

 

 

 

鋳造現場の熱量を感じ取る

 

高温で溶かした金属を型に流し込んで固める鋳物。複数ある鋳造方法のうち、手作業を中心とした砂型鋳造にこだわる鋳物専業メーカーが東日本金属です。創業はなんと1918(大正7)年。砂型鋳造とは、文字通り、砂の型を使用して高温で溶かされた金属を流し込んで固める古くからある鋳造方法です。創業以来、手作業を中心としたこの製造方法にこだわり、今日まで歴史を紡いできました。

 

到着した一行を出迎えてくれたのは、4代目の小林亮太さんです。「祖父がメーカーとしての道を歩み始めていろんな工場さんとの付き合うようになり、父親の代からは、協力会社も増えて製造の幅を広げて売り先を増やしてきました」と会社の歴史を話してくれました。

 

 

同社は、鋳造製品に必要なプレス・メッキなどの加工や組み立て、検品も内製化しています。小ロットで製造できることに加え、一貫して作ることができるのでさまざまなニーズに柔軟に応えることができます。多様な要望に応えられるのは、専門分野に特化した協力工場がいてくれるからこそ。

 

「私たちは『下請け会社』ではなく、昔から『協力会社』と言ってきました。近くに協力してくれる方たちがいるからこそモノが作れることに感謝する、そんな仕事の姿勢を大切にしていきたいので『下請け』という言葉は使いません」と小林さんは説明します。

早速、鋳物場へ案内していただきました。鋳物場は天井が高く、歴史の重みを感じる木造の建物でした。戦後すぐ、創業者である先々代社長が木造建築の醤油工場を移築してきた建物が現代でも活躍しているそうです。

 

 

 

 

まずは、砂型の作り方を小林さん自らデモンストレーションをしてくれました。砂型は溶解した金属を流し込んで鋳造品を作るために重要なもの。上型と下型に分かれた木製の模型を、型枠で囲って周囲に天然の山砂を込めていき、固まると砂型が出来上がります。

 

砂は、季節によって水分量の調整を行っているそうです。「梅雨時期は湿度や材料の湿り気もあって調整が特に大変で、鋳物屋泣かせと言われているんですよ」と説明をしてもらいながら、あっという間に砂型が完成しました。

続いて、「注湯(ちゅうゆ)」といわれる溶かした金属を砂型に流し込む工程も見学させてもらいました。1,000度で溶解した高純度の真鍮を窯からすくい上げ、砂型の小さな湯口(溶けた金属を流し込むための入り口部分)に次々と正確に流し込む光景は圧巻でした。

 

 

 

 

温度が下がれば固まるので、型の隅々に真鍮が行き渡るように、慎重かつスピーディに行う神経を注ぐ作業です。この日、小林さんと共に作業を行っていた男性は、小学生からの幼なじみなのだとか。言葉を交わさずとも、真鍮を流し込んだ砂型を移動させ、また新たに砂型を設置していく、作業が小気味よく息ぴったりに進む光景は、いつまでも見ていたくなるほどでした。工場内は汗がダラダラと流れるほど高温でしたが、参加者は緊張感のある作業の様子を無言で見入っていました。

 

「よく『職人の勘』という言葉を聞くと思います。確かに、長年培った経験による判断もありますが、祖父からは職人だろうと誰であろうと、自分の中のデータを持つように、と言われてきました。鋳造においても水分量とかもノートできっちりと記録して残しています。それがあるから、さまざまな相談をもらった時にベストなものを提案できるんです」と祖父の教えを胸に仕事に向き合う、小林さん。

 

「職人の勘」をデータとして可視化する取り組みは、次世代に鋳造技術を引き継いでいこうとする強い意志を感じます。

 

 

 

 

「自分たちが携わった」と実感できるものづくりを

 

真鍮が固まったら砂型を解体すれば鋳造品が現れます。砂型から取り出された直後の鋳造品には、湯道(金属を流すための通り道となる部分)や湯口がついた状態です。これらを切断して取り除き、バリ取りやゆがみを直すなどの仕上げ作業を行って、鋳造品になります。

 

鋳造の現場を見た後、加工や組み立てなどを行う加工場も案内していただきました。

 

同社が手がけている製品には、例えば音楽スタジオなどで防音扉に設置されるハンドルやドアなどの蝶番(ちょうつがい)、窓の金具などがあります。中でも防音扉用のハンドルは、業界シェアの7割、8割を誇るそうです。この日は、ちょうど防音扉のハンドルを組み立てていました。誰もが知る大切な部分を担う製品が墨田区で製造されていることを知って、感嘆の声をもらす参加者も。

 

ものづくりがしたいと志願して入社したという女性スタッフや、協力会社にいた縁での入社以来、20年以上、加工現場で働くベテランスタッフが照れくさそうな顔をしながらも、作業内容をていねいに説明してくれました。

 

 

些細な質問でも、実際に鋳造品を見せながらわかりやすく教えてくれて、親しみやすさが印象的でした。時に冗談を交えてスタッフ同士で会話する場面も垣間見て、やりがいや鋳物への価値を感じて作業をされていることが参加者にも伝わってきたことでしょう。

 

「当社では完成品まで対応できるのもあって、出来た製品がテレビに映ったとスタッフが報告をしてくれることもあるんですよ。自分が作ったものが使用されているのを実感できるのは、やりがいの一つになっているのかなと思いますよね」と感慨深げに話す小林さん。数ある町工場の中から、自社を選んでくれたことに感謝をしながら、スタッフとのコミュニケーションも大切にしています。

 

 

 

 

鋳造技術で応える幅を広げ、次世代につなぐ

 

工場から程近い場所にある、“鋳交Factory”も案内してもらいました。2017年にできたこの場所は、鋳造した後に切削や研磨を行う機械加工の工場です。小林さんの弟さんが工場長を務めているそうです。大量生産を目指すというより、製造において手作業の技術と機械の特長を生かして提案の幅を広げるために機械が導入されました。

 

 

「“鋳造技術と新しい機械が交わり、新たな交流や世代交代が生まれる工場に”という想いが込められています」と小林さん。スタッフみんなが愛着を持てるようにと、社内で投票をしてスタッフたちの意見で決めた工場名なのだとか。みんなが親しみを持って「チュウコー」と当たり前に呼んでいるのも印象的で、働くひとたちの想いに火を灯す場の一つになっているように感じます。

 

「私たちは御用聞きのような存在」という小林さん。どんなお困りごとにも解決できる方法を一緒に考え、提案し、カタチにしていくことを積み重ねていけば、それまでになかった新たな仕事にもつながり、協力会社にもプラスになっていく。そんな循環を大切にして、今後も鋳物を通したものづくりの可能性を追求していこうとしています。

 

 

 

創業以来、出会った人たちのご縁を大切に、お困りごとの大小にかかわらず、技術とアイデアで応えてきた同社。一つ一つに真摯に向き合ってきたからこそ、仕事がまた新たな仕事を呼び、歴史的建造物の復元プロジェクトに携わるなど、他社ではなかなか対応できない難しい要望にも応えていけるのです。

 

「直接工場に相談できること、そして鋳造を作ったその先まで対応できるのは私たちの強みの一つです」と小林さん。

 

ものづくりをしたいという依頼者の熱意に応えようとしてくれる会社だからこそ、ナビゲーターの大井さんはあえて相談者側に求めることを尋ねました。

 

「サンプルの単価やロットを気にされて相談される方も多くいます。その気持ちは理解できますが、ぜひ希望単価に近づけるためにも、製品イメージがわかる製図を持って相談に来ていただけると嬉しいです。具体的なイメージがあるほど、培った経験から提案できることがたくさんありますし、何よりも現場で形にする職人からの食いつきも変わりますよ(笑)」と工場側の視点を伝えてくれました。

 

 

参加者から「自社発のプロダクト開発はしないのですか?」という質問に、「確かに考えることもあるのですが、いろんな要望に応えるにはまだまだ課題が山積みだと思っているので、技術の部分を高めていくことを優先したいです」と率直に語ってくれました。

 

最後に本物の野菜から型を作ってできた箸置きをお土産にいただいて、参加者たちは大喜び!

 

見学だからこそ聞ける仕事の裏話も聞きながら、ものづくりに対する根底の想いを知り、鋳造の理解を深めていった一同。経営者として、また職人として真摯に受け答えをしてくれる小林さんの姿を見て、「一緒に取り組んでみたい」と思った参加者もいたことでしょう。スタッフのみなさんの親しみやすさも相まって、工場に直接相談をすることへのハードルが下がったように感じます。

 

なぜ、私たちはモノを作りたいのか?

どんな人と一緒にものづくりをしたいのか?

 

そんなことを改めて考えるきっかけになるキャラバンでした。

 

 

後編もお楽しみに!

 

 

 

 

すみだものづくりキャラバン 第5回

〜ものづくり習熟度向上プログラム特別編〜

実施日:2025年7月16日

見学協力:東日本金属株式会社

レポート:草野明日香(ライター/SIC会員)

主催:墨田区産業共創施設SUMIDA INNOVATION CORE(SIC)

 

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