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<イベントレポート・後編>すみだものづくりキャラバン 第6回「金属加工の現場に触れる工場見学ツアー」
26.03.30

<イベントレポート・後編>すみだものづくりキャラバン 第6回「金属加工の現場に触れる工場見学ツアー」

「すみだものづくりキャラバン」は、SICが実施するものづくり事業者の現場を訪ね、工場の雰囲気やつくり手たちの技術、想いに触れる半日ファクトリーツアーです。

前編に続き、後編として2026年2月20日に開催された内容をお届けします。

今回は「金属加工の現場を見る」をテーマに、株式会社ヨシズミプレスと株式会社協栄医科工業を訪問! 加工法が異なる2社の魅力を存分に堪能してきました。

 

株式会社ヨシズミプレス:https://www.yoshizumi-press.com/

株式会社協栄医科工業:https://kyoei-ika.co.jp/

 

 

※前編はこちらから※

 

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今回のキャラバンにも、工場間の輸送を行う配送ロボットの製造に取り組んでいる方やスタートアップ支援を行う大学職員、有料のゴミ箱サービスの展開を模索中にハード面を学びたいという方など、さまざまな視点でものづくりに関わる方や興味ある方が参加されました。

 

ナビゲーターとして同行したのは、初回から「すみだものづくりキャラバン」の楽しみ方を広げてくれている、SICメンター会員でプロダクトデザイナーの大井雅人さん(株式会社Pit-A-Pat 代表)。墨田区内外の製造工場との協業で、商品企画やデザイン、アートディレクション、マーケティング、ブランディング、販路開拓及びプロモーション、知財戦略立案など多数の実績をお持ちです。

 

 

 

 

培った技術で楽しむ

 

最初に訪れたのは、創業76年の歴史を誇る株式会社ヨシズミプレスです。ナビゲーターの大井さんにとって、「サラリーマンデザイナー時代にものづくりの面白さを知り、独立を決意するきっかけとなった非常に思い入れの深い会社」だと言います。一人のデザイナーの新たな一歩を後押しした会社、ということで期待が高まっていきました。

 

「当社はボールペンや万年筆といった文房具用の部品やスマートフォンのコネクタなどの電気関連、自動車精密部品、医療機器関連の部品などを製造しています」と製造現場を案内してくれたのは、工場長の清水さんです。20歳で未経験から同社に入り、現在は工場長として活躍されています。

 

 

同社の強みは、金型設計からプレス加工まで一貫した生産体制を整えていること。また、一つの金型に複数の工程が組み込まれた順送金型を使用した「順送プレス加工」ができ、多数の工程を必要とする部品の製造や大量生産品の製造ができます。

 

 

生産性の高い加工法なので短納期での対応が可能で、依頼内容によっては金型製作から量産まで最短1週間で対応することもあるのだとか。ステンレスやアルミ、鉄、ニッケルといった金属のほか、硬くて粘り気がある上にバリが出やすいというニッケルの加工もできるなど、さまざまな素材での加工を相談できるのも嬉しいポイントです。

 

「スペースの確保に常に頭を悩ませているんです」という清水さんの説明通り、限られたスペースにテトリスのように加工機械がうまく配置された工場内。一定のリズムを刻みながら、次々と部品を作っていく機械を、正面から、横からと覗き込んで、機械の動きを熱心に観察する参加者も。

 

 

現場で作業を行っていたスタッフから、金型の重要性についても教えてもらいました。一見すると金型を機械にセットをすれば、一定のクオリティで製品の量産ができるように思えますが、「材料が薄くなるほど求められる規格は高くなり、見た目以上に気を使う繊細な仕事なんですよ。特に金型には他ではきっと真似できない技術が詰まっているんです。」

 

 

金型は、高速で効率的な生産ラインを実現し、生産性や品質の向上させてくれるもの。金型の精度は、製品の精度や品質に直結するので、プレス加工において大変重要です。そんな重要な金型づくりを、同社では平均年齢30代半ばの社員が担っています。

 

職人の属人化を防いで、技術の継承をしていくために同社では金型づくりを3名体制で内製化しています。「金型の販売もできるのでは?」という声も上がりましたが、工場長の清水さんは「そうした声をいただくことはありますが、金型の販売で採算をとるよりも目指したいのは製品の受注です」と率直に語ってくれました。

 

 

金型製造まで手がけられる同社では、長年のプレス加工経験を活かして、最適な簡易レベラーの製造・販売も行っています。レベラーとは、ロール状になっている材料を加工前に平坦に矯正する設備のこと。そのレベラーを改良して、プレス加工を行う職人がより使用しやすく、矯正精度も高いものを開発したのです。

 

「機械の購入を検討したこともありましたが、加工は1種類のみで約1,000万円かかるという見積りで、現実的ではないと判断してソフト面を教わりつつ自分たちで作ることにしたんです」と赤裸々に語ってくれました。

 

 

さらに安全管理についても、ものづくりの知恵を活かした事例があるのだとか。かつて「職人は指を落として一人前」と言われる程、現場ではどこか安全を犠牲にした考え方もあったようですが、スタッフが安心して働ける職場づくりの一つとして、先代から安全管理の徹底にも注力してきました。なんと、機械に手や指が挟まれるのを防ぐ重要な安全装置として、レーザー式安全装置までも製作したそうです。

 

「加工現場で生まれた課題を自分たちのものづくりの力で解決させている、という点に魅力がありますよね」と目を輝かせながら話すナビゲーターの大井さん。

 

 

 

お客様からの依頼に応えたいという想いはもちろん、自分たちが作業をするために必要とするものを自分たちの手で作ってしまう、カタチにできる技術力を活かしながら、新しい価値を生み出せるというのは、ものづくりの醍醐味だと感じさせてくれます。

途中、代表の吉住研さんにも登場いただき、初代がケトバシ(足踏みプレス機)1台から始めた小さなプレス工場が、今では自動プレス機34台を抱えるまでに成長してきたこと、そして「今後もチャンスがあれば何でもやりたい」と力強くお話されている姿が印象的でした。

 

 

その言葉通り、医療用クリップなどの新分野への挑戦や自社ブランド『APY』の展開など、新たな挑戦も始めています。

 

 

製造現場を見て、スタッフのみなさんが黙々と作業しながらも、自分たちの言葉で丁寧に説明してくださる姿に、参加者のみなさんもより親しみを持てたのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

職人が強い時代をつくりたい

 

2社目に訪れたのは、東墨田に拠点を構える株式会社協栄医科工業です。精密板金加工、金属加工全般を行っており、高精度・高品質を求められる医療機器を中心に、飲食店向けの厨房機器など、自社で金属のレーザー加工、曲げ加工、溶接まで一貫して対応できます。

 

ゆったりシルエットのスーツスタイルに爽やかな笑顔で出迎えてくれたのは、同社4代目代表取締役の徳永武志さんと採用担当の畑さんです。

 

徳永さんは当初、家業を継ぐ意志を持っていたわけでなく、音楽業界でラッパーやDJとして活動をしたり、調理師免許を取得して料理人として働いたりと、板金加工とは程遠い業界で活動してきたそうです。お父様が亡くなり、その後お母様が3代目に就任しましたが、その後の家族会議で徳永さんが4代目になると決意し、2020年に代表に就任されました。

 

 

当時、売上げの9割を1社に依存している状況に危機感を抱き、取引先の拡大に注力をされたそうです。「出来もしない営業を頑張って、厨房機器や看板、ディスプレイ製作など、とにかくいろんな製作にチャレンジしてきました」という徳永さん。地道に販路を拡大し、7名だったスタッフは総勢25名にまで増加。看板や店舗什器など多岐にわたる金属加工を手がけるだけでなく、スタッフ発案のオリジナルブランド『カナサカ-KANASAKA-』の展開や異業種とのコラボレーションによる製作などを積極的に行い、多岐にわたる金属加工を手がける会社に成長させました。

 

 

採用担当の畑さんの案内で、まずは同社の「心臓部」である設計室にも案内をしてもらいました。担当しているのは、22歳から24歳までの女性スタッフが3名。お客様から預かった2Dの平面図を3D図面に書き換え、板材から立体にするための複雑な展開図をこの3名で描き出しています。

 

 

一つの板材から一つの製品を作るというわけではなく、数十ものパーツを使って出来上がるという説明を聞き、工程の多さを知りました。量産のために最小限の作業量にする工夫の一つとして、「たとえば強度に大きく影響しない部分は溶接ではなく、金属専門の接着剤を使用するといった対応をしています」といった、加工工程にさまざまな試行錯誤があると教えてもらいました。

 

CADなどのソフトウェアを使いこなし、次々と設計図を作成しているスタッフたちですが「金属は熱によって収縮や膨張が起こるため、いかに歪みを抑えて製作できるのかが重要です。図面だけじゃわからない作業効率やよりよい加工の提案は、AIよりも職人のほうが優れていると思います。だから、悩んだ時にはすぐに職人に聞いたほうが早いです(笑)」と、みな口をそろえて言います。

 

かつては、曲げの加工も曲げていく順番を職人が自ら決めていたそうで、効率的かつ高品質なものを作るための経験やノウハウが豊富だからこそ、現場の職人たちから挙げられる意見やアドバイスは、設計スタッフにとっても大きな学びになっているそうです。

 

 

続いて、工場内の見学へ。足を踏み入れて、やはり驚かされたのは若いスタッフの多さ。職人の高齢化や人材不足といわれて久しいものづくりの業界ですが、スタッフの平均年齢はなんと、31歳。それを聞いた参加者一同からは、「どうやって若い世代の人材を確保しているのか」と驚きの声があがりました。

 

最新のファイバーレーザー複合機によるデモンストレーションをしてもらいました。板材の打ち抜きだけでなく、タップ加工、バーリング加工も複合機1台で完結でき、従来の機械の3倍から5倍のスピードで切削することができるのだとか。短納期の量産が可能な上に、アルミやステンレス、鉄に加え、加工が難しいといわれるチタンや真鍮まで、あらゆる金属に対応できるそうです。

 

 

また、3mもの長尺を曲げられる大型ベンダーやさまざまな溶接機、検品の様子などを見学させてもらい、最新設備と受け継がれてきた古い機械をうまく活用しながら、みなそれぞれの持ち場で一生懸命に取り組む姿が印象的でした。

 

 

 

社内の雰囲気もスタッフみなさんの作業着も、どこを見ても「かっこいい」という印象を受けた参加者も多いはず。技術の追求はもちろん、若い世代がものづくりにやりがいを持てるような、工夫や努力を随所に感じられました。

 

代表の徳永さんは「私が目指したいのは、職人が強い時代をつくること。自分の価値(技術)を説明できる、そんな職人を増やしていきたいんです」と想いを語ってくれました。

 

 

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金属加工方法に異なる強みを持つ2社の見学を通して、「どうすればできるのか」を考え抜く姿勢は共通していたのではないでしょうか。確かな技術や大切な人材を大切にしながら、「次世代にもつなげていきたい」「いいものづくりをしたい」そして何より「やるなら楽しくものづくりをしよう」、そんな気概を持って取り組んでいるのが理解できたはずです。

 

協栄医科工業内のカフェエリアで行われた交流会でも、人材採用の仕方や具体的なコラボレーションの可能性を探る会話などがなされ、大いに盛り上がりました。

 

すみだで相談すればどんなことでも実現できそう、と創作意欲がわいてくるような魅力的な2社でした。

 

 

 

 

 

すみだものづくりキャラバン

「金属加工の現場に触れる工場見学ツアー」

実施日:2026年2月20日

見学協力:株式会社ヨシズミプレス、株式会社協栄医科工業

レポート:草野明日香(ライター/SIC会員)

主催:墨田区産業共創施設SUMIDA INNOVATION CORE(SIC)

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