REPORT
<イベントレポート・前編>すみだものづくりキャラバン
24.04.28

<イベントレポート・前編>すみだものづくりキャラバン

SICは「想いと技術でつぎの未来を共創する場」をコンセプトに、開設以来、ものづくり企業とスタートアップとがつながる機会を少しずつ増やしてきました。そんな中、3月21日に初開催となる「すみだものづくりキャラバン」が実施されました。この企画は、ものづくりの事業者の現場を訪ね、工場の雰囲気やつくり手たちの技術、想いに触れる1dayのファクトリーツアーです。参加したのは、新たな価値を共創したいと想いを持って取り組むスタートアップやクリエイターなど。どんな気づきやアイデアの進化につながるヒントを得られたのでしょうか?

当日の模様を前編・後編でレポートします。

 

※後編はこちらから※

 

・・・

 

集合場所のSICに集まったのは、スタッフを含め約20名。スタートアップ会員や準会員だけでなく、すみだで活動をする地元の方、中にはまちやものづくりに興味を抱いて湘南から参加をした方も。「すみだのものづくり企業とつながりたい」「ものづくりを共創するヒントを得たい」「地元にどんな企業があるのか知りたい」と目的はさまざまでした。

 

ツアーの前に、墨田区産業振興課の髙梨さんからすみだの産業の特徴やSIC開設の経緯が説明されました。

 

 

 

革やメリヤス、紡績、ガラス、マッチ、レンガなど近代産業の先駆けとなり、印刷・紙加工・金属、プラスチック、皮革など多種多様な産業が集積しているまちであること。

製造業の占める割合が多く、9名以下の小さな企業が多いこと。

中小企業の産業振興政策として、全国に先駆けて「中小企業振興基本条例」を制定したこと。

「新ものづくり創出拠点事業」で、すみだのまちで新たな事業に挑戦するものづくりの企業をサポートしてきたことーー。

 

そんなすみだの歴史・文化、これまでの取り組みを生かし、これからのすみだをつくるため、区内にある各産業拠点をつなぎながら、新たな価値を創造しようとする企業を積極的に支援する。その動きを改めて加速させたいと、想いが伝えられました。

 

髙梨さんは「墨田区にはさまざまな産業が集積しているが、それぞれの町工場が役割分担をしながら、互いの技術を活かし課題解決を行なってきた歴史と文化があります。SICは、そんな下町ならではのつながりと産業集積を生かし、スタートアップと区内事業者の共創を育む場として誕生しました」とSIC開設の背景を話してくれました。

 

「歴史を紡いできた中小企業は、独自に活路を見出しながら今日まで続いてきました。ものづくりの企業とスタートアップが互いの立場や環境を理解し合える機会になると思います」と高梨さんが締めくくり、いざ、貸し切りバスに乗ってファクトリーツアーへ!

 

今回は、自社の技術を活かしてカスタマイズや特殊加工の相談に乗り、「どんなアイデアも大歓迎!」という勢いでものづくりに挑んでいる以下4社を訪ねました。

株式会社サンコー(印刷会社)

株式会社間中木工所(特注家具・オーダー家具製造会社)

株式会社浜野製作所(金属加工会社)

株式会社ミヨシ(プラスチック製品の試作、金型製造会社)

 

 

 

クリエイターとの協働で「おもいをカタチにする」

 

最初に訪れたのは、墨田区亀沢にある印刷会社のサンコーです。印刷業界で培った色へのこだわりや技術力をベースとして、ブランディングやデザインでお客様の「こうしたい」を導き、さまざまな制作物に落とし込んでいく。企業やクリエイターの「おもいをカタチにする」印刷会社です。

 

「職人たちは恥ずかしがり屋なので、すごいと思ったら大きめのリアクションをしてもらえると喜びます(笑)」と話しをしてくれたのは、3代目の有薗悦克さん。大手のチェーン企業で執行役員などを務めたのち、家業を継いだそうです。

 

 

デジタル化やメディアの多様化などによって、シュリンクしていく印刷業界。そんな中で生き抜く方法を模索した結果、墨田区の支援を受け、2015年にクリエイター専用のシェアオフィス「co-lab墨田亀沢」をオープンさせました。ここにはデザイナーやライターなど多様なクリエイターが集まっています。「印刷の前段階からチームを組んで仕事をする形に変化させた」というサンコーは、クリエイターたちとコラボレーションをすることで活路を見出しました。

 

 

 

 

「世界に1枚だけの名刺を作りたい」というデザイン会社の相談を受け、印刷と断裁のバリエーションを試して、すべて異なるデザインの名刺を作り上げた事例を聞き、試行錯誤の過程に「なるほど」と自然と声が上がっていました。クリエイターと印刷のプロのコラボレーションによって、アイデアがカタチになるその面白さを実感できたはずです。

 

 

 

企業やクリエイターの想いを受け取り、気温や湿度の確認、機械による数値管理の徹底をしながら、培った経験からくる「勘」も大切に、目標の色になるまで細かな調整を繰り返していく。そんな職人たちの細やかな動きに驚いた一同。印刷に対するていねいな姿勢を間近で見て、「多くの工程と職人たちの調整があるからこそカタチになることを知ると、印刷代金を割り引いてほしいとは言えないですね」という声も聞こえてきました。

 

最後に「墨田区で事業を続けている理由は?」と尋ねられた有薗さん。「近場にいろんな業種が集積しているのがメリットと考えています。小さな町工場では単一機械を設置している場合が多く、分業構造になっていて、分業し合うことでいろんなものをカタチにできる仲間がいる、というのが墨田区で事業を続ける理由です。お客様やクリエイターたちと一緒に考え、職人とクリエイターの化学反応を起こしていきたい」と話してくれました。

 

 

 

「モノをつくる」ことに挑戦し続ける

 

昼食をはさんで訪れたのは、特注家具やオーダー家具を製造する間中木工所です。SICの施設内にある椅子やテーブルの一部は間中木工所が製作に携わりました。同社は小村井駅から徒歩9分のところに位置する「テクネットすみだ」のビルに本社があります。このビルは異業種の企業が集まり、連携をして事業を行う都会型工場アパートとして誕生した施設。現在、ビルの一部を区が借り上げ、ものづくりのベンチャー企業がラボスペースにできるよう貸し出されており、段ボール家具のカミカグをはじめ、7社のベンチャー企業が入居。すみだの歴史あるものづくり企業とベンチャー企業のそれぞれ持つ高い技術が掛け合わさり、多様なものづくりがされています。

 

 

代表の間中治行さんが案内をしてくれました。間中木工所の創業は大正13年(1924)。創業時は製造工程の一部であった加工を中心とした製造を行っていた同社は、「技術で社会に奉仕する」を理念に、軍需製品や育児ベッドなどの既製品家具製造を経て、現在の特注家具製造へと業態を変化させながら、今日まで技術をつないできたそうです。

 

家具業界では一般的に収納家具など箱状の「箱物家具」と椅子やソファなど脚がついた「脚物家具」の分類があり、間中木工所では主に「箱物家具」の製造。現在、デザインから加工、塗装仕上げ、取り付けまで一貫して手がけています。

 

 

 

この日、工場でつくられていたのは保育園に設置する本棚。「実は保育園の家具は難易度の高いものなんです。ぶつけても割れない素材選定や丸みのある形状で保育園になじむやわらかいデザインにすること、耐久性の高いものであることなど、非常に高いレベルを求められます」と間中さんは家具づくりの面白さや大変さを話してくれました。

 

毎年、ヨーロッパの展示会にも出展をするなどして対外的にも積極的な動きをしながら、業界動向の把握や家具に関わる学びを深めているそうです。

 

家具が使用される場面や場所に配慮を行き届かせ、空間になじむ家具に仕上げていく職人たちの姿勢や技に圧倒された一同。歴史ある会社には、古くからある技術や伝統を守りながらも、時代の流れや業界の動きを常に意識して挑戦をやめない姿勢があるということがよく理解できました。

 

 

さらに、ビルに入居する企業の紹介や見学もできました。

 

日本の伝統工芸品である桐ダンスの修理・修復などを行う明治25年(1892)創業の二葉桐工房、金・銀メッキのオリジナル金属製品の企画から製造までを手がけるヒキフネ、SICの館内サインにも携わった看板製作のNEORIGINAL、創業400年を誇り今もなお最新技術を駆使して進化を続ける金属彫刻の伊藤彫刻所、世界的に有名なクリスタルガラスメーカーの商品を梱包する紙箱などを製造する西廣紙器製作所ーー。

 

多種多様な会社を見学し、参加者たちは「すみだにこんなに歴史のある会社やニッチな世界で活躍する会社があったのか……」と驚きを隠せない様子で、技術の根底にある素材選びや技術の生かし方など、それぞれの企業のものづくりへの向き合い方を聞くたびに、感嘆の声を上げていました。

 

(後編へつづく)

 

 

すみだものづくりキャラバン

〜ものづくりの現場を⾒つめ、アイデアを進化させるファクトリーツアー

実施日:2024年3月21日(木)

見学協力:株式会社サンコー、株式会社間中木工所、株式会社浜野製作所、株式会社ミヨシ

レポート:草野明日香(ライター/SIC会員)

主催:墨田区産業共創施設SUMIDA INNOVATION CORE(SIC)

 

PREV
NEXT
一覧に戻る