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<イベントレポート・後編>すみだものづくりキャラバン
24.04.30

<イベントレポート・後編>すみだものづくりキャラバン

3月21日に開催された「すみだものづくりキャラバン」。この企画は、ものづくり事業者の現場を訪ね、工場の雰囲気やつくり手たちの技術、想いに触れる1dayのファクトリーツアーです。当日の模様をお伝えするレポートの後編です。

※前編はこちらから※

 

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独自性を磨き、ものづくりの上流から関わる

 

3社目に見学をしたのは、SICの事業連携パートナーでもある浜野製作所。ロボット・装置の設計・開発、精密板金加工、機械加工、金属プレス加工、プレス金型製作をはじめ新規事業の製造コンサルティングまで幅広く事業を行う会社です。

 

 

また、地域連携事業にも積極的に取り組んでいることでも有名な同社。電気自動車や深海探査艇の開発プロジェクトをはじめとする産学官連携事業やオープンファクトリーへの参画、2014年には新しいものづくりの実験施設として「Garage Sumida(ガレージスミダ)」を設立しました。この施設ではスタートアップ企業や大企業などの新規事業や大学・研究機関などの開発支援をしています。

 

 

こうした数々の取り組みは、ものづくり日本大賞経済産業大臣賞受賞や2018年には天皇陛下(現上皇陛下)が視察に訪れたり、ニューヨークの国連本部での事例報告を行ったりと、国内外から評価されています。ものづくりの新たな価値をつくってきたすみだが誇る町工場のひとつです。

 

「町工場として技術を用いるのはもちろん、コミュニケーションや心意気(気力)をどのように引き出し、物事を進めていけるかが大事だと思っています」と話してくれたのは、案内を担当した経営企画部の西内廉さん。

 

 

共創事例として、聴覚障がいを持つ鉄道利用者に向けて開発されたモニター装置「エキマトペ」の実証実験に至るまでの製作ストーリーを中心に、浜野製作所がものづくりで大切にしていることを聴き、各工場の見学をさせてもらいました。

 

 

参加者の中には実家で金属加工業を営んでいたという方もいて、製造業の可能性を追求しながら若い世代も活躍する浜野製作所の教育体制や技術を継承する取り組みにも興味を抱いていました。

 

「ものづくりの会社としてこれからも生き残っていくためにどんなことを大切にしているのか?」という質問に、西内さんは「町工場にはそれぞれ特徴があります。独自性をどのようにして製造の上流にまで引き上げていけるかが大事だと思います。それには企画力・発想力・デザイン力が求められるので、提案型で事業展開をしてこれからも進化していきたい」と熱意を語ってくれました。

 

 

 

徹底したユーザー視点のものづくり

 

ものづくりキャラバンの最後は、葛飾区にあるミヨシの見学へ。自動車部品や医療関連部品などのさまざまなプラスチック製品の試作や射出成形を通して、小ロット生産でものづくりをする会社です。

 

案内をしてくれたのは、代表の杉山耕治さん。これまで見学してきた3社と同じように、ミヨシもまた、図面通りにつくる下請け仕事ではなく、開発段階からお客様に寄り添うスタイルを貫いてものづくりをする会社です。

 

 

量産前の試作を行い、小ロット生産を行えるので、大手企業からベンチャー企業、大学まで取引先は幅広いのだそうです。近年では金型製作で培った技術を生かし、ベンチャー企業の製品づくりのサポートをする機会も増えているといいます。

 

工場には数値制御で切削加工ができるマシニングセンタや、手動でハンドルを操作して切削加工をするフライス盤、放電加工機、射出成形機といった多様な加工機械があり、金型製作にかかわる設計から成形まで一貫して行えるようになっています。それによって、成形の際に出た課題をすぐに設計に伝えられ、スピーディーに対応ができるのです。

 

「捨てられないものづくり」「人の役に立つものづくり」を企業理念に掲げるミヨシは、扱う樹脂も多種多様です。ABSやPP、ポリカーボネートなど一般的なプラスチックと呼ばれる素材を扱うのはもちろん、自動車部品などにも使用されるガラス繊維が含まれた樹脂や植物由来の樹脂など特殊な素材も。さまざまな素材からお客様の要望に適したものを採用し、小ロット生産で必要なものを必要な分だけ作るという、環境にも配慮したものづくりを徹底しています。

 

 

 

切削加工も加工の内容によって機械を変えることを教えてもらったり、削り出した金属の磨きの手間や難しさを実演してもらったりーー。杉山さんから説明を受けながら、機械や職人の動きをじっくり観察する参加者たち。緻密な技がよいモノを作り出していることが理解できたようです。

 

 

工場の見学後には、ミヨシの社員の方たちからレクチャーを受けて、手動の射出成形機「INARI M12」でプラスチックのアニマルクリップづくりの体験もさせてもらいました。

 

モノを大切にしてほしいという願いが、一つひとつの工程を丁寧に行うことにつながっている。ユーザー視点のものづくりの一端に触れることができた時間でした。

 

 

 

アイデアをカタチに

 

SICに戻ってきたのは、すっかり日が暮れた頃。最後は見学先の会社のみなさんも集まり、懇親会も行われ、1日を振り返りながら会話もはずみ大盛り上がりでした。

 

 

起業のヒントを得たいとツアーに参加した方は、「印刷の技術を知り、日本のアートを外国人向けのお土産として販売することはできないかといった発想が生まれ、いろんなワクワクが止まりませんでした」と自身の中にさまざまなアイデアが浮かんだようで嬉しそうでした。

 

サステナビリティをテーマに公私にわたり携わってきたという方は、「一つひとつのものがどれだけ大事につくられているかを知ることは、ひいては世の中を大事にすることにつながると感じた」とものづくりの現場を見て、さらに視野が広まったようでした。

 

SICのスタートアップ会員の1人として参加した方は、「すべてにおいてご一緒できる可能性を感じながらワクワクして巡りました。『神は細部に宿る』という言葉がありますが、各会社のものづくりからそれを感じ取れたように思います。何か一緒にできる機会を作っていきたい」と熱意をみんなにシェアしました。

 

町工場が抱える問題はさまざまですが、その中でも見学をさせてもらった会社はそれぞれの課題をしっかりと捉え、未来につなげていくために“守破離”を実践されていることが共通する部分だったのではないでしょうか。

 

ものづくりとは誰かの生活を豊かにする役割があると実感できた今回のキャラバン。技術力や行動力を持つすみだの企業と豊かな発想で世の中に貢献しようとするものづくりのスタートアップがコラボレーションし、これからどんな共創のカタチができていくのか、期待の膨らむツアーとなりました。

 

すみだものづくりキャラバン

〜ものづくりの現場を⾒つめ、アイデアを進化させるファクトリーツアー

実施日:2024年3月21日(木)

見学協力:株式会社サンコー、株式会社間中木工所、株式会社浜野製作所、株式会社ミヨシ

レポート:草野明日香(ライター/SIC会員)

主催:墨田区産業共創施設SUMIDA INNOVATION CORE(SIC)

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