<イベントレポート>TAKUMI −匠/巧− 第1回開催 「できません」で終わらせない。墨田の印刷・紙加工の匠たちが語るものづくりの力
6月16日、SICにて、クロストークイベント「TAKUMI −匠/巧−」を開催しました。
TAKUMIは、ものづくりのまち・墨田を代表する事業者を招き、業界の特徴や仕事への想い、地域に根付くものづくりの魅力を発信するシリーズ企画です。
記念すべき第1回のテーマは「印刷・紙加工」。
当日は、印刷、製版、製本、抜き加工、パッケージ製作など、それぞれ異なる専門分野を持つ7社が登壇し、普段はなかなか知ることのできない紙のものづくりの現場について語りました。
一つの製品は、一社ではつくられない

私たちが日常的に手にしているパンフレットや書籍、パッケージ。それらは一社だけで完成するわけではありません。イベントではまず、望月印刷株式会社の田中一博さんと、株式会社小林断截の小林宏慈さんが、印刷物ができるまでの流れを解説しました。
印刷物づくりは、デザインや製版、印刷、製本、抜き加工、表面加工、製函など、多くの工程によって成り立っています。都内では特に分業化が進んでおり、それぞれの工程を専門とする事業者が連携しながら一つの製品をつくり上げています。
完成した製品だけを見ると想像しにくいものの、その裏側には多くの職人や事業者の技術がつながっています。今回登壇した7社も、それぞれが異なる役割を担いながら、日々ものづくりの現場を支えています。
「好きだから続けている」職人たちの仕事
続いて行われた各社の自己紹介では、それぞれの強みや仕事への想いが語られました。

製版を専門とする株式会社日光プロセスの原田一徳さんは、企業ロゴの色味やタレントの肌の表現など、印刷物の仕上がりを左右する繊細な調整を担っています。仕事をする上で大切にしていることを問われると、「良品」という言葉を挙げました。それは品質が良いという意味だけでなく、「良い品性を持って仕事をすること」でもあると語ります。

有限会社エースプリントの村方龍太さんは、小ロット印刷やレーザー加工を強みとし、1枚からでも対応できる柔軟なものづくりを紹介しました。

株式会社東北紙業社の加藤清隆さんは、昭和20年代から使い続ける機械を活用した抜き加工を手がけています。決して大量生産向きではないものの、その分、自由度の高い加工ができることが強みです。

五十嵐製箱株式会社の五十嵐寛之さんは、段ボールパッケージの設計・製造を行っています。「できないと言われた表現にも別の方法を提案したい」と語り、高精細な印刷技術への挑戦を続けています。

また、製本を手がける株式会社伊藤バインダリーの伊藤雅樹さん、株式会社小林断截の小林宏慈さんからは、製本技術だけでなく、自社商品や特殊加工への取り組みも紹介されました。

クロストークでは、望月印刷の田中さんが「まず大事なのは、紙と印刷が好きであること」と語る場面もありました。

同じ紙を扱う仕事でも、その向き合い方や得意分野はさまざまです。しかし、その根底にはものづくりへの愛情と誇りが共通して流れているように感じられました。
墨田だからこそ生まれる連携
イベントを通じて特に印象的だったのは、登壇者たちが語る「つながり」の話です。クロストークでは、「墨田区で事業を行う意味」についても意見が交わされました。
登壇者から共通して聞かれたのは、事業者同士の距離の近さでした。
困ったことがあれば相談できる仲間がいる。
自社では対応できなくても、別の事業者を紹介できる。
顔の見える関係だからこそ、新しい挑戦もしやすい。
伊藤バインダリーの伊藤さんは、仕事をする上で大切にしていることとして「すぐ断らないこと」を挙げました。一度断ってしまえば、その先のご縁が途切れてしまうかもしれない。だからまずは話を聞き、考えてみる。その姿勢を大切にしているといいます。実際に、外国人のお客様から傷んだ聖書の修復について相談を受けた際、自社だけでは対応できなくても、墨田の仲間につなぐことで力になれた経験があったそうです。
また、小林断截の小林さんは「こんなものを作りたいけれど、誰に相談したらいいかわからない」という相談を受けることが多いと話します。そのときに「あの会社ならできるかもしれない」と思い浮かぶネットワークこそが、自分たちの強みだと語りました。

印刷会社、製版会社、製本会社、抜き加工会社、パッケージ会社。それぞれは異なる専門性を持ちながらも、「困ったらあの会社に聞いてみよう」と自然につながっています。
今回のイベントを通じて見えてきたのは、墨田のものづくりを支えているのは技術だけではないということでした。事業者同士が互いを知り、信頼し、必要なときに手を差し伸べる。そんな関係性そのものが、墨田の大きな強みなのかもしれません。
デジタル時代だからこそ問われる紙の価値
クロストークの最後のテーマは、「デジタル化・Web化が進む中で、紙だからこその価値とは何か」。
登壇者からは、
「手にしたときの質感や重さ」
「五感に訴える体験」
「所有する喜び」
「紙だから伝わる品位や特別感」
といった意見が挙がりました。
望月印刷の田中さんは、これからは単に情報を伝えるだけの紙ではなく、「手にして嬉しいもの」「持っていて満足感のあるもの」をつくっていく必要があると語ります。
また、小林断截の小林さんは紙の魅力として、手触りや重さ、ページをめくる感覚など、五感で味わえる体験を挙げました。
日光プロセスの原田さんは、「デジタルは敵ではなく友達」と語ります。その上で、デジタル化が進む時代だからこそ、紙の価値をさらに高めていくことが重要だと話しました。
情報を伝えるだけであればデジタルの方が便利な場面もあります。しかし、紙には人の気持ちや特別な想いを届ける力があります。だからこそ、紙の可能性はまだまだ広がっていくのかもしれません。
イベント後には交流会も行われ、参加者は実際のサンプルを手に取りながら登壇者と交流しました。

今回のTAKUMIで伝わってきたのは、紙のものづくりの奥深さだけではありません。その背景には、多くの事業者が互いを信頼し、支え合いながら築いてきたネットワークがあります。
「こんなものをつくりたい」
そんな想いを抱いたとき、墨田には相談できる職人たちがいる。ものづくりのまち・墨田の頼もしさを感じるイベントとなりました。

TAKUMI -匠/巧-
第1回 印刷・紙加工事業者
実施日:2026年6月16日
レポート:國場美乃(ライター/SIC会員)
主催:墨田区産業共創施設SUMIDA INNOVATION CORE(SIC)